自動車業界でのEV化はどこまで進むのでしょうか。エンジン車は残るという予想もあります。
EVについては、日本では電力不足になり節電を呼びかける日もある中、この国でEVを増やしても良いのかという疑問が湧きます。天然ガスを燃料にする発電も、ロシアからの天然ガスの輸入を禁止する国が増えて電力が高くなり、経済性もどのようになるか暫く動向を見る必要があります。
また、中国やインドの自動車需要も増えていきます。電気や電池は十分供給できるのでしょうか。
桃田健史氏は著書『エコカ一世界大戦争の勝者は誰だ?』の中で「最後に残る車は分からない」と書いていました。
そこで今まで調べた結果、最終的にどの自動車はどのように変化するか、そしてどのような自動車が残るのか/残すべきなのかを考えてみました。
EVはエンジンを使用しないため排気ガスの排出が少なく、排気ガスによる環境汚染も少ない。しかし、大きなバッテリーを載せているためバッテリー製造時に多くのCO2を排出する。そこで日本の現状でCO2排出量を比較しました。
参考資料としてネット情報Evsmartの「自動車の二酸化炭素排出量に関する研究結果~環境に良いのは圧倒的に電気自動車」に引用されたEindhoven大学のAuke HoekstraとMaarten Steinbuch教授の論文を元に検証しました。
(引用:Comparing the lifetime green house gas emissions of electric cars with the emissions of cars using gasoline or diesel)
Auke HoekstraとMaarten Steinbuch教授の論文では以下の項目を前提条件としています。
そして、車の種類は
の三種類に分けで検討しています。
しかし、ヨーロッパの状況と日本の状況では大きく異なります。
1. 日本では火力発電が主流でありCO2排出の少ない再生可能エネルギーの比率が低くCO2排出量は多いのが現状です。EU:250g/ CO2eq/kWhに対し、日本では 613g/ CO2eq/kWhと算出されています。
2. 自家用車の利用では一日当たり20~30km程度で年間7000km程度しか走らない。
(参考:https://dime.jp/genre/374453/、ソニー損害保険株式会社調査結果)
表 年間走行距離とその割合
約60%の人の年間走行距離は7000km以下です。
3. 日本で主に利用されている自動車は軽自動車とコンパクトカーで約60%になります。Mercedes C 220d やTesla Model 3の割合は少なくBugatti VeyronやPorsche Taycan Sはそれより更に少ないでしょう。日本では軽自動車とコンパクトカーが主流の自動車であり、これらの自動車の将来を予想することが重要です。
表 車種別自動車の利用台数
また、新車を買って次の車に乗り換えるのは平均7.7年で新車が廃車になるのが13.24年なのでCO2の排出量の計算には10年で計算しました。
(a)の車種のCO2の排出量
表に示されたようにフォルクスワーゲンeGolfはプリウスより日本の条件では4%CO2排出量は少なくなります。しかし、バッテリーの処理、充電設備の設置などに必要なCO2を考慮するとハイブリッドのプリウスの方が少なくなるでしょう。
(b)の車種のCO2の排出量は
ベンツC220dの様なエンジン車と比較するとテスラのModel3は18%もCO2排出量は少なくなります。しかし、トヨタプリウスと比較する2816kgもCO2の排出量は多くなります。
(c)の車種のCO2の排出量は
ポルシェのTaycan SはBugatti Veyron約半分CO2排出量は少なくなります。しかし、トヨタプリウスと比較するとCO2の排出量は12245kgも多くなります。
CO2の排出量の順に並べると(注:アンダーラインを引いた車はEV)
VW eGolf ≒プリウス < Tesla Model 3 < Mercedes C 220d < Porsche Taycan S < Bugatti Veyron
となり、EVが必ずしもCO2の排出量が少ない訳ではありません。
日経automotive2019年10月号に掲載された記事(トヨタの2019年5月:2030年を比較想定した日本と欧州におけるパワートレーン別のCO2排出量をLCAベースで試算した結果では、発電のCO2排出量が多い日本では、【第1回】EV化とCO2に記載したように2030年段階でHV(ハイブリッド車)のCO2排出量はEVを下回るという結果となっています。(詳しくは【第1回】EV化とCO2をご参照ください。)
確かに上記b表、c表の車種ではガソリン車と比べてEVのCO2削減はされています。しかし、これら車種の販売価格を見てみると300万円以下はプリウスだけであり、他の車種は500万円を越え、Bugatti Veyronに至っては2億円を越えています。このような車種と比較するのは妥当ではないでしょう。もっと多くの人たちが利用する生活に必要な自動車を考えるべきでしょう。
以上の結果、EVのCO2の排出量は従来のエンジン車よりは少なくなりますが、HVのような改良されたエンジン車よりCO2の排出量は同じか多くなります。EVのCO2排出量が少ないというのは限定された条件でのみ成立し、普遍的な結果ではありません。EVが排気ガスを出さない車のイメージから想起された幻想といえるのではないでしょうか。
表 自動車の販売価格
将来拡大すると予想されているEVと今までの主流であったエンジン車を再度検討してみます。
中国では50万円のEVからさらに安い10万円のEVまで出てきています。国の状況によって経済状況も異なります。日本では日本の状況によって最も良い自動車を選択することが重要です。これまでの自動車の中で最も有力であるEVとHVの課題を整理しました。
表 ハイブリッドとEVの課題
上記から分かるように、電気自動車ではバッテリー生産のCO2削減やバッテリーの軽量化などバッテリーに依存する課題や電気不足、LNGや原油高騰による値上がりなどの要因の影響が大きく、電気自動車メーカーとしては対応できない要素が課題の主因となっています。エネルギー源になっているバッテリーの重量も300~700kgと重たくエネルギー損失が大きく効率的ではありません。
CO2の削減についてもHVと比較してほとんど効果がないことは上記の計算で明らかであり、EV(電気自動車)は日本ではこれからの本流にはならないでしょう。さらに電力が不足し節約を呼びかけている日本ではEVを増やすことは旧式の石炭火力を動かすことになり環境に対しては逆効果です。
電力は全ての国民が利用する公共資源(コモン)であり、空気、水、土地などと同様に使い方については慎重に進める必要があります。
一方HVでは原油事情もありますがエンジンの更なる効率向上も必要です。エンジンの効率化はメーカーで実施されていますがエンジンは負荷変動に対して全ての領域で向上するには限界があります。今まで数十年かけて改善はされてきましたがこれ以上大幅な改善を期待するのは難しいでしょう。排気ガスによる環境問題もある程度は改善されてきましたが限界があります。
これまでに述べて来たように、EVとHVともにそれぞれ重要な問題点があります。
それではエネルギー問題と環境問題を解決できる車はあるのでしょうか。筆者はこれまでの調査検討でそれはエネルギーを自ら調達するソーラーカーであるとの結論に達しました。しかし、まだ本格的なソーラーカーは販売されていません。世界では出始め、日本でも検討され始めた段階です。
EVとHVの両方の限界を打開するのがこれからの自動車です。これらの課題を解決した自動車は今まで調べた自動車の中には無く自前で動力を得て走るソーラーカーが最も近いとの結論に達しました。
現在までネットなどの情報では数社がソーラーカーを開発しています。ネットで調べたソーラーカーはいずれもバッテリーを搭載しています。理由はバッテリーを持たないと日光が出なくなると走れなくなるため最低限度のバッテリーは必要なのです。ここではソーラーシステムにより走行エネルギーの大半を賄う車もソーラーカーと呼ぶことにします。
表 現在の市販ソーラーカーの性能
注:データは各社のインターネット情報を元にまとめました。
ソーラーエネルギー単独でも16~70km走行できています。走行最大距離はバッテリーの大きさに依存して100~1600km走行可能です。
価格は日本円で80万円程度と安いですが、ソーラーエネルギーだけで走れる距離は20km/day程度です。本格的な自動車としては性能的に不十分であり今後の改良が期待されます。
ソーラー性能、車体構造など革新的な乗用車となっています。加速性能も0-60mphが3.5秒と優れていてソーラーカーのように感じられません。車体も電気自動車より65%も軽量化しています。軽量化は効率的な次世代自動車には必要不可欠な技術です。
一般の乗用車としては使い難いようですが、軽量化等これからの自動車の参考とする点が多いようです。
乗用車だけでなく、トラックやバスなども視野に入れて開発しています。
車体の荷台をフルに太陽電池を装着して、ソーラーパネルを3.2㎡も確保しています。太陽電池だけの走行能力は16km/day程度であり、業務用の車であればそれ以上が必要と思われます。
1km走行に必要な電力は電気自動車の1/2から1/3程度の83Wh/kmと優れ、太陽電池も特許のdouble curved solar array構造で215Wh/m2の出力を持っています。走行性能、車体性能や太陽光発電性能も優れており、太陽光だけで70km/day走行可能としています。
しかし、価格が2000万円を超えるので一般向きではありません。技術とデザイン共に優れ参考になります。
ソーラーカーというより太陽電池をオプションに持ったEVの分類に入るのでここでは省略します。同様の車にはトヨタのプリウスPHVがあり、プリウスもオプションにソーラーパネルを持っています。
ソーラーカーの場合、バッテリー単独での一日の走行能力は16~70kmあり、日本の70%の車は一日の平均走行距離は20~30km程度です。ソーラーシステムで十分エネルギーを供給できている車もあります。
独特の車体ではありますがApteraは車両重量をEVの1/3にして、空気抵抗を0.13とテスラ3の0.23より大幅に軽量・低抵抗の車体になっています。構造があまりにもユニークですが参考になります。
Lightyear Oneも走行性能や太陽光エネルギーの効率などで優れた性能を持ち参考になります。
また、研究段階ですが産総研・トヨタ・シャープの共同研究ではソーラー発電で一日44.5kmの走行できるデータも得られています。
(引用:世界最高水準の高効率太陽電池を搭載した電動車の公道走行実証を開始 2019/7/4)
図 太陽電池パネルを搭載した「プリウスPHV」実証車
これらの車は太陽光発電が不足するときはバッテリーに充電して走ることを前提にしています。ソーラーカーはバッテリーなしでは走れませんが毎日充電する必要もなく、走らないときは家の電力として使用できるようにすれば公的電力の負担は小さくなります。
つまり、太陽エネルギーだけで走行エネルギーを自前で調達して、充電は天候の悪いときや遠くに行くときなど補助的に必要なときに利用する。そして自動車を使わないときには電力を家庭で利用できるようにして電力の負担を無くすことができるのです。
EV(電気自動車)はCO2の排出量が少なく環境に良いと思われていますが、日本で使用する条件ではバッテリー製造時のCO2も加わり、HV(ハイブリッド車)とほぼ同じ程度のCO2を排出します。また、日本では電力が不足して節電を呼びかける日もあり、EVを推し進めることは果たして有効なのでしょうか。
EVもHVも難しい課題があり改善は直ぐにはできないようです。そこで今まで取り上げなかったソーラーカー(SV)を調べたところ世界では数社販売を始めていることが分かりました。SVはエネルギーを太陽電池で供給するのでEVより60%程度の大幅なCO2の排出量の削減が期待でき、ガソリン価格や電力価格にも依存せず近未来の乗用車として最も適しているように思われます。
次回ではSVの条件と実用化への課題や経済性についてまとめます。SVの実用化は日本だけでなく、中国、東南アジア、インドなどこれから乗用車が増加する地域でも実用化されるでしょう。
本稿は執筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等の見解ではありません。