はじめに 第5次EVブーム(現在のEVブーム)

2017年ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン・グループのジャーマン3は相次いで今後5年ほどの間に10モデルや20モデルといった大量の新型EVを市場投入すると発表しました。さらに、7月の英仏政府による「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売の禁止を目指す」との発表がされました。こうして、第5次EVブームが到来しました。 排気ガス不正という大スキャンダルの発覚からフォルクスワーゲンは、次世代自動車の牽引者へとイメージチェンジを図ったのです。
さらに2019年からの中国NEV法への対応が始まり第5次EVブームが広がりました。
(参考文献:EV新時代にトヨタは生き残れるか、桃田健史著、株式会社洋泉社(1917))

過去にEVブームは4回ありました。EVの問題点としては ①製造コストと販売価格が高い、② ガソリン車と比べると航続距献が短い、③充電インフラが整備されていないことでした。 これらの課題は改善されたもののまだ残っています。最終的には消費者の事情により決まりますが40%を超えるにはかなり時間がかかりそうです。

目次

タイヤ用ゴムの新展開


ゴムの技術は1839年から1844年にかけてGoodyearおよびHancockが加硫を発明し始まりました。次にオーエンスレガーが加硫促進剤をそして補強性フィラー(カーボンブラック)の発明があります。これらの三大発明によりゴムの加硫物性は大幅に改善されました。(例えば粷谷信三著、ゴム材料科学序論、P20 (1995)など)

1970年代になりポリサルファイド結合を持つシランカップリング剤(Si69)が発明された。Si69とシリカをフィラーとして使用した低燃費のグリーンタイヤが出てきました。
一方カーボンブラック配合でも低燃費化の検討が進められ溶液重合SBR(SSBR)ポリマーに官能基を導入することで低燃費タイヤが生産されるようになりました。
更にSSBRにシリカと反応する官能基を導入することでより高性能な低燃費タイヤが生産されるようになりました。変性ゴムとしてはSSBR以外にNd-BRも製造されるようになりました。

しかし、その他のタイヤ用ゴム、例えばエマルジョンSBRや天然ゴムについては特許では開示されていますが実用化されていません。

変性ESBRと変性天然ゴムの挑戦 クレージーなあなたに期待


変性ESBR:
実用化されないのは変性が難しいからではありません。変性は官能基を持つモノマーと共重合することで簡単に合成できます。しかし、乳化重合では通常の条件では合成されたポリマーの末端に官能基が導入できないのです。また低分子量のポリマーもできます。そのためにフローリーの理想のゴムから遠のいて強度が低下して発熱が大きくなります。
ポリマーの設計においてポリマー末端に効果的な官能基が導入できるかどうかにかかっていると考えています。
残念ながら資本主義の多くの国のESBRメーカーではESBRの研究を放棄してしまっています。クレージーな研究者がいなくなったのでしょう。クレージーな研究者が出てくることに期待しています。 今まで何人かの研究者がトライして目標を達成していません。検討する前にどのような分子設計をするか入念に検討して進める必要があります。

変性天然ゴム:
アイデアはありますが書きません。書けば実際に実施した人が特許を取れなくなるからです。今まで書いた文章で思いつかれた方もあるかと存じます。思いついた人は研究のできる環境にあれば是非やってください。上司にクレージーだと言われてもトライしてください。仮説を明確にして先行文献や特許を調べてトライすればきっと成功すると思います。天然ゴムは最も多くタイヤに使われているゴムです。成功すれば得るものは大きいです。地球環境にも役立ちます。是非トライしてみてください。

変性技術をESBRやNRにも展開し、ゴムの第4の発明と言われるようにして、省エネルギーにより地球環境の改善に貢献しませんか。

地球環境保全 多様なエネルギーの探査と廃熱の利用を


環境保全対策は各国の状況と環境によって異なります。全ての国がカナダのように水資源に恵まれている訳ではありません。
日本の国として可能な方法を探り一つずつ検討して実現化することが大切です。その方法については一部の者に任すのでは無く、広く民意を聞く必要があると思います。石炭、石油と天然ゴムの化石燃料を削減することで国としては輸入費用が少なくなり、その分を国内に振り分け国内産業に向けることで雇用の確保と地域振興に役立てることができるでしょう。

多様な方法を探るには日本は適しています。人材、地域、技術など日本には適した方法を探る潜在能力があります。
再生可能エネルギー(自然エネルギー)案として既に実施されているものも含まれています。

  • 太陽電池、太陽熱エネルギー
  • 風力エネルギー
  • 海流エネルギー
  • 森林エネルギー
  • 海洋生物エネルギー
  • ゴミエネルギー

そして石炭や石油発電でも副生するスチームなどを有効に利用することでエネルギーの利用効率を高めることができます。既に化学プラントの動力源などでは実施しています。
また、石炭発電では森林から集めた燃料を燃焼することでCO2の削減と環境負荷は下げることができます。

森林エネルギーの活用


日本では産業革命前の江戸時代に既に持続可能な社会を形成していました。エネルギーについて言えば森林エネルギーに頼っていました。国土の80%が山であり森林は豊富にあります。江戸時代と比較すると森林の利用は下がっているように思われます。
昔は料理に使用する薪や芝は近くの森や林から取ってきていました。薪がプロパンに変わり、プロパンが都市ガスや電気に変わりました。その結果森林を手入れする者が少なくなり、山は荒れ森林火災が起きると消えにくくなりました。森林が冨エネルギー化しているのでなかなか消えないのです。
世界的にもアメリカ、オーストラリア、カナダやブラジルの森林火災がニュースに出てきます。また火災はいったん起きると長く続いています。森林の利用と保全にエネルギーの観点以外からも見直す時が来ています。

育森
植林によるCO2削減計画もありますが植林によって土砂が流れ海の魚の繁殖が阻害されたことがあります。「ニシン山に登る」(大滝重直著、(1974))という本にかつては北海道で海が黒く染まるほどニシンが取れた。今では漁獲量は大幅に下がった。ニシンが今でも産卵しているところを調べたところ、海に流れる川の上流には人の入っていない森林であったとの記述があります。植林も砂漠を緑化するのは良いのですが、今ある森に植林するときは川を汚さない注意が必要です。また杉や檜のような花粉公害樹のような木ばかりを植えるのではなく風土にあった空気と環境に良い木を植えるべきでしょう。 そして、山を掘り起こす植林ではなく、今ある森を整備して最低限の手入れで倒木や選定した木、枝、葉を利用する育森をすべきではないでしょうか。

個人のモラルと規制


誰がCO2を削減するのかについて富裕層はもっと削減すべきとの意見もあります。人類の排出するCO2の約半分は、世界のトップ1%の富裕層が排出しているとも言われています。
大阪市立大学大学院の斎藤幸平准教授と、衆議院議員の古川元久氏と法政大学の水野和夫教授の鼎談では「世界全体が富裕層に甘すぎる」自家用ジェットやスポーツカーは全面禁止にすべきだとの意見もあります。
(引用:President Online https://president.jp/articles/-/47113?page=1)

また、日本、アメリカや中国のように火力発電の割合が多い国ではEVよりハイブリッドの方がCO2排出は少なくなります。そのような国ではハイブリッドを止める合理的説明はできません。それでもハイブリッドを禁止するのでしょうか。

ハイブリッド車を含めたエンジン車の販売を禁止する前に大量にCO2を発生する自家用ジェット機などを規制することが必要でしょう。また、出力の大きなEVスポーツカーのような乗物なども禁止すべきではないでしょうか。EVでもEVの製造に大量のCO2を発生します。また、走った運動エネルギーは最終的に地球に熱エネルギーとして蓄えられます。EVでも結局地球温暖化に働きます。
個人は地球環境への影響を考えて、持つことの影響の大きさを考えて決めることです。大出力の高性能EVを持つことは地球環境には良くないことと認識すべきです。そして、影響の大きな高出力車や自家用ジェットについては規制値を決めて制限すべきでしょう。人の命に係わることですから金で解決すべきことではありません。禁止すべきです。

企業のモラル


江戸時代の近江商人のモットーは「売り手良し。買い手良し。世間良し。」でした。社会にとっても良い企業であり、社会に貢献することをモットーとしていました。現代の企業は企業活動や製品を通じて社会に貢献することをもっと優先すべきです。(引用:近江商人の理念と商法、NPO法人 三方良し研究所(2019)

多くの企業がCO2削減を目指して「カーボンニュートラル」「カーボンゼロ」の目標を掲げて活動することは良いことだと思います。しかし、単にCO2削減だけを目的にするのではなく、原点に立ち返り自然環境保全の観点から取り組むべきです。CO2は減ったけど温暖化は止まらずNOXが増えたのでは自然環境は悪くなります。無駄なエネルギーを削減して効率の良いプロセスを開発することは企業にとっても社会にとっても必要なことです。原点に立ち返り社会に貢献すべきです。

EV化はどの程度進むか


色々な調査がありますが世界的なデータは少なく、コンチネンタルが調査した結果が自動車春秋社から紹介されていたので参考のため記載します。(引用:https://www.jdt-news.co.jp/news/64351/)

調査項目は「将来的に電気自動車(EV)を購入することを想像できない」にどれくらいの人が投票したかのデータです。

表 電気自動車(EV)を購入することを想像できない人の割合

2013年の調査と比べていずれの国でも低下し、EV化が進んでいることが分かります。しかし、EV化に力を入れているドイツのEV化に否定的な人の割合が高く、ドイツ人はEV化がまだ限定的と考えているようです。
一方中国ではEV化は大いに進展しそうです。
アンケートは質問内容、状況、相手や質問の仕方によっても変わりますのでそのまま受け入れることはできません。結果としてEV化は進展していますが、まだまだエンジン車に置き換わるのは時間がかかりそうです。

CO2削減は目的ではなく手段


第1回論文でCO2削減は目的ではなく手段であると書きました。目的は地球環境の保全、温暖化の防止です。以前にも書きましたが原子力発電もCO2は出しません。しかし、原子力エネルギーの2/3は熱として地球を暖めています。電気エネルギーになっているのは原子力エネルギーのわずか1/3です。原子力発電は決して地球環境には優しくないです。
福島第一原子力発電所事故の時に最悪日本国土の半分が人の住めない土地になるという被害想定もありました。地球環境の保全は大きな設備で解決できるものではなく、小さな努力を集めて達成できるのでしょう。

また、最近アンモニア(NH3)をエネルギー源に使うという動きがあります。アンモニアを燃焼させるとNOXという窒素酸化物が発生します。かつての大気汚染公害の原因物質です。アンモニアを使っても反応熱は地球にたまります。発生した毒性の高いNOXはどのように処理するのでしょうか。そして、その処理エネルギーと副生物は地球環境にどのような影響を与えるのでしょうか。

環境対策はあくまでも地球環境保全を最優先に考えるべきで、その手段としてCO2削減があるのです。CO2が減っても地球環境が悪化して温暖化しては目的は達成されません。



水戸光圀のつくばい-吾唯足知-

地球環境を守るためには守る心が必要です。

子供を大切に育て、大切にすることで子供たちは地球を大切にすることを学び、環境を守るようになるでしょう。次の世代の育成も重要です。

大人はできる範囲で環境を守ることを実行することです。

そして欲を抑えて自制することです。持続可能な社会を形成した江戸時代は260年も続きました。その間に外国とも交易せず、戦争も一度もしなかった。その江戸幕府の副将軍水戸光圀は龍安寺に「吾唯足知」という文字を刻んだつくばいを残しています。上に立つ者を戒める言葉です。江戸の時代が長く続いたのは支配階級の武士が己の欲望を自制し質素であったからだろうと思います。

なお、本稿は執筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等の見解ではありません。

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